パンだ

ゆるくまったりと好きなことを好きなように

2019年の中山大障害

本命は決まっていた。シングンマイケルと金子光希騎手。他にはもう見えなかった。1週間考えていたのは賭ける金額だけ。いつも通りに単勝複勝100円ずつのがんばれ馬券? ちょっと背伸びして、単勝1000円・複勝3000円? それとも、単複5000円ずつ? どれもしっくりこなくて、いつしか「単勝1万円か」と思い始めていた。この馬を、この騎手を、この大舞台で買うなら、今この瞬間しかないだろう、と。

 

シングンマイケルは、武士沢友治騎手を応援している自分にとって特別な1頭だった。300勝メモリアルをどうしても現地で見たくて、カメラと応援幕を引っさげて毎週土日競馬場に通った2年前。2017年7月2日の福島7R3歳未勝利。勝つと思っていた。シングンマイケルで300勝を決めると思っていた。でも、2着。

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現実は残酷だった。毎週競馬を見ていると、毎週勝っている騎手がいる。というのは誇張かもしれないが、それでも高頻度でコンスタントに勝っている騎手はいる。そんな人がいる一方で、なぜ武士沢騎手はこんなにも「300勝まであと1勝」に届かないのか。当の本人がいちばんキツい、ツラいのはわかっている。本人がいちばん「どうして」と思っているだろうということも。でも、外野も、ラチの外側から見ているだけの自分からしても「どうして」としか思えなかった。あと1勝。涙も出た。

 

「あの夏」に感じた「どうして」は今も胸でくすぶっている。300勝は達成した。重賞も久しぶりに勝った。2019年も現時点で9勝。個人的な見方だけれど、いい調子なのでは? と思う。でも消えない。どうして勝てないんだ、と何かわからないものに押し潰されそうになった夏の日のあの感情は薄らいできたとはいえ、まだ残っている。

 

そんなあの夏を思い出そうとすると一番に浮かぶのがシングンマイケルだった。その馬が中山大障害という大舞台を走る。それも2番人気。重賞2連勝している。鞍上の金子光希騎手は勝てば自身初のJ・GI制覇。しかも彼はいわゆるガンダ部だ(そらとぶおにいちゃん参照)本命にする以外の手はなかった。

 

ということで、マルターズアポジーマイルCS以来の単勝1万円を買った。日和っちゃいけない、と複勝は買わなかった(記念に単複100円ずつのがんばれ馬券は買ったけど)賞与も無ければ交通費も自腹の派遣社員には震える買い物だった。

 

パドック、はなみち、返し馬を経て、発走。見ていられなかった。障害レースにはどうしたって落馬の可能性は高いし、何より4100mの長丁場はシングンマイケル初経験。途中でずるずる下がっていく姿を見てしまったらどうしようという根拠の無い不安を拭えなかった。それでも、見ていられないと目をつぶりたくってもレースは始まっているし、実況はシングンマイケルの名を呼ぶ。ハラハラする。ドキドキする。がんばれ、と念じながら最後の直線で見たのは、先頭を走るシングンマイケルだった。「み゛つ゛き゛ぃぃぃ! マイケルがんばってー!」といま思えばだいぶ周囲に迷惑な声を出しながらシャッターボタンを押していた。そしてファインダー越しに見たのは、先頭のままゴール板を駆け抜けるシングンマイケルと、ムチがしなるほどの金子光希騎手のガッツポーズだった。シングンマイケルと金子光希騎手が中山大障害を勝った。

 

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夢みたいだ。シングンマイケルが中山大障害を勝った。ついでに自分の単勝1万円も当たっていた。あの夏から引きずる「どうして」はここで断ち切れると思った。そのための単勝でもあったから。勝てないこともある。あとちょっとが届かないこともある。乗り替わりもある。平地から障害への転換もある。あるいは、地方競馬でのリスタートもある。残酷な現実でもってズタズタに切り裂かれることもあるけれど、数年後に昇華されるときがくる、こともある。

あの夏で特別な1頭になったシングンマイケルは、今回の中山大障害を経てその特別さを自分の中で強めた。数年前の自分に言っても信じないと思う、マイケルが中山大障害勝ったよ、なんて。それでも、そんなことが起きるのが競馬だ。身をもって知った。知ることができて良かった、しかもシングンマイケルで。

 

まとまらない。当日の夜、まとまるようなものじゃなかった。それでも一旦ここに記しておく。どうにもならないグチャグチャな感情を残しておく。

 

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おめでとう、シングンマイケル。金子光希騎手。