パンだ

ゆるくまったりと好きなことを好きなように

どこが好きなの?

応援している騎手について、その魅力や好きな理由を尋ねられるとどう答えたものかと結構迷ってしまう。なぜ武士沢友治騎手のファンなのか? そんなの私じゃなくてぶっしーに聞いてくれ。

 

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とは言ってみるものの、先日インタビュー記事を読み返していて「ああ、だから好きなんだよな」という思いを再認識した。

そりゃ、リーディング上位に行きたいし、もっと表舞台に立ちたい思いはあります。でも僕は元々、地味な存在だし、そんなにうまく事は運ばない。じゃあ自分の仕事は何かって考えた時に、与えられたことを地道にしっかりやって、あとは流れに任せる。これが自分の生きる道だって気付いたんです。

 ―小島友実「小島友実の好奇心keiba それ行け!現場 ジョッキー編 vol.60 武士沢友治騎手」『競馬ブック』2008年10月4・5日号

私は武士沢騎手のこういう姿勢を格好良いと思っていて、好きだ。なんというか、人間くさいところ。

 

そもそも私は騎手の方々を人間離れしていると思っている節がある。

自分がレッスン体験程度でしか馬に乗ったことがないからかもしれないけれど、騎手って馬に乗ってるし、勝負の世界に生きてるし、馬に乗ってるし、めちゃくちゃ稼いでるし、あんなスピードの中で進路見つけたり駆け引きしたりしてるし、とにかく馬に乗ってレースしてすごい(語彙力……)人間じゃない(言い方……)というイメージがある。だって怖いでしょ普通。競馬を見始めて10年が経とうかとしている今でもそのイメージは持続中だ。

だから尊敬だとか好きだとか、そういう感情を持つのは住む世界が違いすぎてあんまり馴染まないと思っていたんだけど、なぜか武士沢騎手は違った。「騎手も人間だ」と思えるジョッキーだった。

 

イチ観客が言うのはとても失礼ではあるけれど、色々なインタビュー記事を読んでいると「こうありたい」と「でも」の差を最も強く感じているのは誰でもない武士沢騎手自身なんじゃないかと思ってしまう。

前出の記事が書かれたのは2008年で、私はまだ競馬のケの字も知らなかったからこの時の武士沢騎手がどうだったかはわからない。けれど、当時30歳でデビューから11年目なら願望と現実との狭間でモヤモヤすることもあったのではないかと思う。あと、2008年10月だとトウショウナイトとの別れがあった後だ。それでも腐らず辞めず、現実を見据えて、自分の役目を果たして、それを今日まで続けている芯の強さに惹かれる。弱くて甘ったれな私には到底できないことで、だからこそその姿に胸が打たれる。

 

この武士沢騎手のインタビュー記事は何かの折に読んでいる。この間は、自分の誕生日に来年は30代なのにこれじゃ全然ダメだなーって現在とか将来とかへの不安が浮かんで、思わず手にしていた。この記事を読むと、勇気付けられたり背中を押してもらえたりというのとはまたちょっと違う、うまく言えないしあまり前向きではないけれど、怯んで後退りしそうな脚に力が入るというか、「もうちょっと踏ん張ってみるか」という気持ちになれる。

 

そして前出の記事から9年後、再び小島友実さんが武士沢騎手のインタビュー記事を書いている。ここで武士沢騎手が語る言葉もまた、心臓を鷲掴みにするものだった。

僕は操作や気性が難しい馬に乗せていただく機会が多いので、この馬に乗って怪我をするかもとか、騎乗停止になったらという不安が多々よぎります。でもレースに行く前に、“大丈夫。なんとかなる。どうにかする。何かあったらその時だ”と、気持ちを切り替えます。それでダメなら結果を受け入れ、次に乗り替わりになったとしても、他の騎手がどう乗るかを直視して勉強します。

 ―小島友実「小島友実の好奇心keiba それ行け!現場 美浦トレセン編 vol.127 武士沢友治騎手」『競馬ブック』2017年3月18・19・20日

 「どうにかなる」じゃなくて「どうにかする」。こだわるところじゃないかもしれないけれど、この言い方にハッとさせられた。

どうにかすると自分で掴みに行くその向き合い方(まあ、なんとかなる、とも言っているけれど)どうやって言えばいいか適切な表現が出てこないけれど、たとえダメだとしても結果が出るまでは自分のできることを自分の精一杯でもってぶつかって取り組んでいく姿勢に、武士沢騎手のやっていることやスタンスと自分とを比べたら勇気付けられるとかそんな全然おこがましいけれど、背筋が伸びる思いがする。

 

それにしても、武士沢騎手が語る中には苦しいとかそういう言葉がよく出てくる。

楽しい時もあるけど、ほぼ苦しいんじゃないかな。いつも切羽詰まった状況ではやってます。安心したことはないですね。今年ジョッキーやめることになったらどうしようって毎年思ってるから。そのくらいの覚悟がないとやれないでしょ。安泰って思ったら終わりでしょ

穴男・武士沢友治の武士ロード! - 常石勝義 | 競馬コラム - netkeiba.com

僕なんかこれから峠というか、毎年峠のような気がして。1回も安心した年が無いんですよ。
1年目からジョッキー辞めなきゃいけないって出来事もあったし。それを考えれば、1回2回は死んでるから頑張るか、みたいな。

競馬Lab-トークダイナマイト

「勝てない…、勝てない…」って自己嫌悪に陥って、自分に嫌気が差してきて(苦笑)。

【300勝達成】武士沢友治騎手(1)『王手をかけてから148連敗 今だから語れる“300勝”』 - 東奈緒美・赤見千尋 | 競馬コラム - netkeiba.com

若いうちは、のたうち回るほどストレスが溜まることがありました。冗談抜きで、本当にもう言葉にできなくて、のたうち回るしかない感じなんです。それが未勝利とか500万とか関係なくて、勝ちたい。10着、10着、そして2着で、一気に変わり身を見せたと思ったら、次は違う人というときは、もうのたうち回りました。でも、それが今は冷静に考えられるようになったかなぁ。

【対談・武士沢騎手④(終)】日本独自の制度ができれば、エージェントはあっていい|西塚助手|競馬予想サイト サラブレモバイル

若い頃から多くの乗り替わりを経験してきました。この20年、騎手として嬉しいと感じたのは1割くらいで、あとの9割は悔しい思いばかり。

 ―小島友実「小島友実の好奇心keiba それ行け!現場 美浦トレセン編 vol.127 武士沢友治騎手」『競馬ブック』2017年3月18・19・20日

ファンとしてはこういうのを読むと、もうちょっと、こう、自分に嫌気差さないで、こうなんというか……! と言葉にしがたい思いが湧き出てくるけれど、良いのか悪いのかはさておきそこも惹かれる魅力のひとつ(のはず)

 

……と、武士沢騎手の好きなところを書き残しておこうと思い立ったはいいものの、こんなに好きなんだからすらすら書けるだろうなんて考えは甘かった。言葉にするのは難しくて、言いたいことのひとつも言えてないような気がする。

 

3年前のnetkeibaの記事で今はまだあきらめていないと「俺のジョッキー人生は終わらない」と言っているから、まだまだ騎手・武士沢友治は見られるはず。そしてもっと好きになって、一層応援する気持ちが強くなるかもしれない。できればGIを獲るところを見届けたいけれど、もしもそれが叶わないとしても、今の競馬界で人間くさく生きていく武士沢騎手の競馬を見ていけたらと思う。