行かないわけにはいかなかった。9月15日、中山競馬場、スペシャルトークショー。その出演者は勝浦正樹(元JRA騎手)、武士澤友治(JRA競馬学校教官)、三拍子(芸人)、岡部玲子(MC)※敬称略
行かないわけには、いかないだろ。ん?
当日、鼻息荒く中山競馬場に到着したのは午前中。最終レース後、16:40頃からのスペシャルトークショーまでは時間があったのでひとまずけやき公苑で開催されていた中山競馬場オクトーバーフェストに向かった。推しである武士沢友治氏(以降澤ではなく沢を用いる)に素面で向かい合う勇気が無かった……というわけではなく、ただ単にビールが飲みたかった。なんか蒸し暑かったし。

もう1杯入れとくかとも思ったけれど、ここらでいったんストップした。この判断が後々我が身を助けることになるとはこの時は知る由も無かった。
馬券は順調に負けていき、そろそろスペシャルトークショーに備えておくかとパドックのスタンド側に向かったのがメインレースのパドック入場前ぐらい。入場料が無料になるフリーパスの日ということもあってか、思った以上の人の混みように一瞬怯むが、メインレースが始まる頃には人もまばらになるだろうとなんとなくの位置で出走馬を眺めることにした。JRAアプリで出馬表を見たり、サインペンで東スポの馬柱に書き込んだり、X(旧Twitter)を見たり。久しくしていなかったX(旧Twitter)での武士沢検索をしたり。そんな折、衝撃的な単語の並びが目に飛び込んでくる。「武士澤教官」と「誘導馬」
えっ。
えっ?
震える手で暑さに耐えかねてパドックを離脱した夫にLINEを送り、動揺でぶれる視界をどうにか抑えてパドック内側の関係者が待機する辺りに目をやる。しばらくして、何やら他とは違う雰囲気の2人が登場し、パドックを背に写真撮影を行なっていた。

いったんはこちらからは見えない辺りに下がったが、メインレース出走馬のパドック周回が終わりそうな頃になると再び現れて誘導馬の待機場所に入っていく2人の姿。
おる。
おるがな。
武士沢教官が誘導馬に跨っている!!!!!!

このときの心臓の拍動をどのように言い表せばいいのか、いまだに掴み損ねているが、とにもかくにも自分は目の前の現実を現実のものとしては処理しきれないでいた。えっなんで誘導馬に乗ってるん? みたいな顔の現役の騎手と、いやほんまなんでなんすかね、みたいな表情で笑みを浮かべる武士沢教官と、ファインダー越しに尊い光景が繰り広げられているのをたしかに自分の目では捉えていて、脳でもそれを尊いと思うぐらいにはきちんと理解しているのだけれども、それでもやはり武士沢教官が誘導馬に跨っているというのは脳の処理が追いつかないでいた。キャパオーバーだった。いつか見たいと思いつつ、叶わないと諦めていた光景が目の前に"ある"のだ。




地下馬道に消えていく背中を見届け、急いで次にその姿を見られるであろうグランプリロードへ向かう。走らずに、走って、向かった。何を言っているかわからないかもしれないが、芝コースに駆け出していく人馬の姿を見届けるために、パドックからグランプリロードへと私たちは走らずに走る。

間に合った。


もう1杯ビール飲まなくて命拾いした。飲んでいたら何かしらをぶち撒けていた。
余談だが、パドックから離脱したものの自分からのLINEを見た夫はグランプリロードで後から来るであろう自分のために見やすい位置を確保してくれていた。そしてパドックで誘導馬を見届けた後、誘導馬よりも早くグランプリロードに着いた自分に、夫は驚愕を隠せないでいた。「どうやって武士沢を見てから武士沢より先に着いたのか」そう問う夫に、自分は答える。「走らずに走ってきたのよ」





返し馬でレッドバンデから佐々木大輔騎手が落馬してしまうアクシデントがありつつ、誘導馬騎乗を終えてグランプリロードで下馬した勝浦さんと武士沢教官。

このときに印象に残ったのは、自身が騎乗した誘導馬であるアサマノイタズラをたくさん撫でる武士沢教官の姿だった。現役時代は、あまり目にすることのなかった騎乗馬を撫でる仕草(自分がただ見ていなかっただけかもしれないが)に、あの頃とは異なる感情でサラブレッドに接しているのかもしれないと、自分は感じた。実際のところは何も変わっていないのかもしれないが。



武士沢教官! 勝浦さん! pic.twitter.com/M5qZibTkfC
— はるこっこ (@murai_h) 2025年9月15日
その後、メインレースの馬券はものの見事に外し、傷ついた心を抱えて本日のメインイベントであるスペシャルトークショーに臨んだ。トークショーは撮影・録画・録音・SNSへのアップロード禁止という注意事項があり、全身全霊で目の前の武士沢教官の一挙手一投足、一言ひとことに集中していた。デカいボケをかますわけではないが、ちょいちょいボケを挟んでくる……というよりもボケ倒す勢いの武士沢教官に改めて心を撃ち抜かれる時間だった。トークショーの大半をにこにこと楽しそうにしていた武士沢教官だったが、自分たちの時代の競馬学校での教え方について話を振られた際に見せた、一切の感情を消した顔での一言「気合い」には鳥肌が立った。そういえばそういう顔にも惹かれたのだった。
勝浦さんと武士沢さんは家近くて飯行ったりって話の流れで、勝浦さんの「中山競馬場でドラマの撮影が」との言葉に、三拍子久保さんが「日曜劇場じゃないですよね?」と返してたけど、教官……映る可能性あるんです……???
— はるこっこ (@murai_h) 2025年9月15日
やっぱりガンダムの話をする武士沢教官、競馬学校の話の流れで「坊やだからね」(坊やですからね、だったかも)と入れてくる。
— はるこっこ (@murai_h) 2025年9月15日
ファンだった騎手の話で勝浦さんは柴田政人騎手、競馬学校入った後はノリさん。武士沢教官は「ヨシトミさんじゃなくて……」と口を滑らせてちょっと笑いを取った(?)後で、名前を出したのは四位さんで、すごく良かった。すごく良かったです。四位さんがすべてを作った。
— はるこっこ (@murai_h) 2025年9月15日
次に武士沢教官を目にすることができるのはいつだろうか。どんな機会だろうか。多分あるはず、いつか来るはずのその時のため、自分は日々を乗り越えていく。
